2021年11月03日
ハキダメギク
ハキダメギク(掃溜菊) Galinsoga quadriradiata
キク科コゴメギク属
(札幌市北区2021.7.)
変な名前のざんねんな植物代表で、ほぼ必ず登場する「ハキダメギク」。命名者がまさかまさかの日本の植物学の父、牧野富太郎先生です。どうしてこんな名前にされてしまったのか、不運だったとしか思えません。
日本では1920~1930年代頃に報告され始めました。そしてあの牧野富太郎先生が世田谷の掃きだめ(ゴミ捨て場)で見つけたことから、「ハキダメギク」などという名前を・・・植物を愛し植物に愛され、「雑草」と呼ぶことを嫌った先生なのに。見たまんま容赦なく命名。他の場所で目に留まっていたらよかったのに。
今ではすっかり高級住宅街という印象の世田谷ですが、ハキダメギクが確認されたころは昔のサザエさんの設定よりさらにもっと前。20世紀前半であれば、ゴミ捨て場はまだ現代のようなクリーンな状態ではなく、生ごみなどの影響で地中の窒素量が多く、好窒素植物であるハキダメギクが優先して生育した、という経緯ではないかと考えられます。実際は道端や空き地、コンクリートの隙間からも生えてくることができるので、あまり環境を選り好みしないのかもしれません。
よく見ると、すごく小さい花はかわいらしい形をしています。チューリップの花の絵のような形の小さな舌状花はとても真っ白で、清潔感すら感じます。背の高さもさほど大きくないので、その姿からは繁殖力の強さなど感じられません。
しかし実は、1年の間に何度も発芽→結実を繰り返し、大量の種を生産します。厳冬期以外はほぼ一年中現れ、発芽から1ヶ月程度で開花、結実するので、世帯交代のサイクルが異常なまでに早いです。
温度さえ確保できれば環境適応力もあり通年開花可能なため、温室や暖かい地域の畑では厄介な雑草で、農業被害をもたらすこともあります。長い間だらだら咲いて、大きい株なら1株で花(頭花)を最大1万以上つけることも。ちなみに1つの頭花は30個程度の種子を作ります。それがそこらじゅう密集しているのですから、まるで大規模種子工場です。この旺盛な繁殖力から「道端外来浸食種」や「コスモポリタン」と呼ばれます。
根の張り方は比較的浅いものの、とても細かく広がり土をごっそり持っていくような形をしています。
その結果、畑でまん延すると、スナップエンドウ畑では50%、トマト畑では20%、生育が低下するそうです。
コゴメギク属はすべて外来種で、日本の在来種はありません。似た植物もありません。
外来種である「コゴメギク」はすごくよく似ています。ハキダメギクと同じくらいの年代に日本に入ってきて、発見当初からこの2種は正しく認識されていなかった可能性があります。1932年に北村四郎氏が神戸市で採集したものをコゴメギクとして報告しましたが、それより前に牧野先生はハキダメギクとして確認していたと言われています。
コゴメギクは舌状花が小さく、中央の筒状花が目立って黄色が目立ち、茎が伸びてやせ型の草に見えます。
ハキダメギクとの違いは、①全体に毛が少ないこと、②舌状花に冠毛がほとんどないこと、③筒状花の冠毛は先が細く伸びずぼさぼさしていること、などの点で見分けられます。
ちなみに、キク科植物なので、種には綿毛がついていますが、タンポポのようにきれいには開かないので、風に乗ってふわふわと飛んでいくようなことはできません。
ハキダメギクについて興味深い文献はこちら。
「桑園雑草の生態に関する研究 II. ハキダメギクの個生態」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/weed1962/21/2/21_2_76/_pdf
日本ではコゴメギクよりハキダメギクの方が優勢で、北海道から九州までほぼ全国に分布していますが、世界的にはコゴメギクの方が優勢で分布域を広げています。
ことわざにある「掃きだめに鶴」というのは「ゴミ捨て場のような汚い場所に鶴のような美しい鳥がいる」ということから、「どうしようもない環境にも美しいものがある」ということ。ハキダメギクもそんな存在になれるでしょうか。
花の様子。チューリップの絵の形のような白い花びらがかわいらしいです。
(屋久島町宮之浦2016.5.)
葉は単葉。毛だらけです。
(札幌市北区2021.7.)
葉の裏。やっぱり毛だらけ。葉脈が目立っています。
(札幌市北区2021.7.)
茎も毛だらけ。
(札幌市北区2021.7.)
2分枝を繰り返して成長します。上部と下部の葉のサイズや形状が異なります。
下の方の丸い葉っぱはゼニバアオイです。
(札幌市北区2021.7.)
花の形状を残しながら、あっという間に結実して、ばらばらと落ちてきます。
(札幌市北区2021.9.)
種の様子。
(札幌市北区2021.9.)
根っこの様子。10㎝程度の小さな株ですが、根っこが細かくて鉢の土を全部持ち上げて抜けてきました。
(札幌市北区2021.10.)
<特徴>
・ 北アメリカ原産
・ 一年生草本。
・ 花期は6~11月(南方ではほぼ通年)
・ 花は上部の枝先に1つずつつける。直径約5㎜程度で回りに白色の舌状花がふつう5個並ぶ。舌状花は先端が浅く3裂する。内側に黄色の頭状花が多数つく。総苞は半球形。総苞片と花柄には腺毛がある。頂部の花が終わると急に葉腋から岐散状に盛んに分枝を繰り返し、丈夫の各枝先に小さな頭花を一つずつつける。
・ 茎は2分岐を繰り返し、枝葉とも白い毛が生える。草全体が柔らかい草質をしている。
・ 高さ15~60㎝程度。
・ 葉は対生。単葉で卵形~卵状披針形、長さ3~6㎝、幅1.5~4㎝。波状の浅い鋸歯がある。表面裏面とも毛が多い。上部と下部では葉の形がだいぶ違う。下部の大型の葉は柄を有し厚みは薄く、3行脈状に見える。
・ 痩果(そうか)は黒く熟して長さ約1.5㎜、五角形の棍棒状。白い鱗片状の冠毛があり、上部の縁が棘状に分かれる。
・ 南アメリカやヨーロッパ。アフリカ、アジア(日本を含む)に移入分布する。日本全国の道端や畑地、空き地などに生育する。好窒素植物で湿った肥沃地を好むが、乾燥した場所でもよく生育する。
キク科コゴメギク属
(札幌市北区2021.7.)
変な名前のざんねんな植物代表で、ほぼ必ず登場する「ハキダメギク」。命名者がまさかまさかの日本の植物学の父、牧野富太郎先生です。どうしてこんな名前にされてしまったのか、不運だったとしか思えません。
日本では1920~1930年代頃に報告され始めました。そしてあの牧野富太郎先生が世田谷の掃きだめ(ゴミ捨て場)で見つけたことから、「ハキダメギク」などという名前を・・・植物を愛し植物に愛され、「雑草」と呼ぶことを嫌った先生なのに。見たまんま容赦なく命名。他の場所で目に留まっていたらよかったのに。
今ではすっかり高級住宅街という印象の世田谷ですが、ハキダメギクが確認されたころは昔のサザエさんの設定よりさらにもっと前。20世紀前半であれば、ゴミ捨て場はまだ現代のようなクリーンな状態ではなく、生ごみなどの影響で地中の窒素量が多く、好窒素植物であるハキダメギクが優先して生育した、という経緯ではないかと考えられます。実際は道端や空き地、コンクリートの隙間からも生えてくることができるので、あまり環境を選り好みしないのかもしれません。
よく見ると、すごく小さい花はかわいらしい形をしています。チューリップの花の絵のような形の小さな舌状花はとても真っ白で、清潔感すら感じます。背の高さもさほど大きくないので、その姿からは繁殖力の強さなど感じられません。
しかし実は、1年の間に何度も発芽→結実を繰り返し、大量の種を生産します。厳冬期以外はほぼ一年中現れ、発芽から1ヶ月程度で開花、結実するので、世帯交代のサイクルが異常なまでに早いです。
温度さえ確保できれば環境適応力もあり通年開花可能なため、温室や暖かい地域の畑では厄介な雑草で、農業被害をもたらすこともあります。長い間だらだら咲いて、大きい株なら1株で花(頭花)を最大1万以上つけることも。ちなみに1つの頭花は30個程度の種子を作ります。それがそこらじゅう密集しているのですから、まるで大規模種子工場です。この旺盛な繁殖力から「道端外来浸食種」や「コスモポリタン」と呼ばれます。
根の張り方は比較的浅いものの、とても細かく広がり土をごっそり持っていくような形をしています。
その結果、畑でまん延すると、スナップエンドウ畑では50%、トマト畑では20%、生育が低下するそうです。
コゴメギク属はすべて外来種で、日本の在来種はありません。似た植物もありません。
外来種である「コゴメギク」はすごくよく似ています。ハキダメギクと同じくらいの年代に日本に入ってきて、発見当初からこの2種は正しく認識されていなかった可能性があります。1932年に北村四郎氏が神戸市で採集したものをコゴメギクとして報告しましたが、それより前に牧野先生はハキダメギクとして確認していたと言われています。
コゴメギクは舌状花が小さく、中央の筒状花が目立って黄色が目立ち、茎が伸びてやせ型の草に見えます。
ハキダメギクとの違いは、①全体に毛が少ないこと、②舌状花に冠毛がほとんどないこと、③筒状花の冠毛は先が細く伸びずぼさぼさしていること、などの点で見分けられます。
ちなみに、キク科植物なので、種には綿毛がついていますが、タンポポのようにきれいには開かないので、風に乗ってふわふわと飛んでいくようなことはできません。
ハキダメギクについて興味深い文献はこちら。
「桑園雑草の生態に関する研究 II. ハキダメギクの個生態」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/weed1962/21/2/21_2_76/_pdf
日本ではコゴメギクよりハキダメギクの方が優勢で、北海道から九州までほぼ全国に分布していますが、世界的にはコゴメギクの方が優勢で分布域を広げています。
ことわざにある「掃きだめに鶴」というのは「ゴミ捨て場のような汚い場所に鶴のような美しい鳥がいる」ということから、「どうしようもない環境にも美しいものがある」ということ。ハキダメギクもそんな存在になれるでしょうか。
花の様子。チューリップの絵の形のような白い花びらがかわいらしいです。
(屋久島町宮之浦2016.5.)
葉は単葉。毛だらけです。
(札幌市北区2021.7.)
葉の裏。やっぱり毛だらけ。葉脈が目立っています。
(札幌市北区2021.7.)
茎も毛だらけ。
(札幌市北区2021.7.)
2分枝を繰り返して成長します。上部と下部の葉のサイズや形状が異なります。
下の方の丸い葉っぱはゼニバアオイです。
(札幌市北区2021.7.)
花の形状を残しながら、あっという間に結実して、ばらばらと落ちてきます。
(札幌市北区2021.9.)
種の様子。
(札幌市北区2021.9.)
根っこの様子。10㎝程度の小さな株ですが、根っこが細かくて鉢の土を全部持ち上げて抜けてきました。
(札幌市北区2021.10.)
<特徴>
・ 北アメリカ原産
・ 一年生草本。
・ 花期は6~11月(南方ではほぼ通年)
・ 花は上部の枝先に1つずつつける。直径約5㎜程度で回りに白色の舌状花がふつう5個並ぶ。舌状花は先端が浅く3裂する。内側に黄色の頭状花が多数つく。総苞は半球形。総苞片と花柄には腺毛がある。頂部の花が終わると急に葉腋から岐散状に盛んに分枝を繰り返し、丈夫の各枝先に小さな頭花を一つずつつける。
・ 茎は2分岐を繰り返し、枝葉とも白い毛が生える。草全体が柔らかい草質をしている。
・ 高さ15~60㎝程度。
・ 葉は対生。単葉で卵形~卵状披針形、長さ3~6㎝、幅1.5~4㎝。波状の浅い鋸歯がある。表面裏面とも毛が多い。上部と下部では葉の形がだいぶ違う。下部の大型の葉は柄を有し厚みは薄く、3行脈状に見える。
・ 痩果(そうか)は黒く熟して長さ約1.5㎜、五角形の棍棒状。白い鱗片状の冠毛があり、上部の縁が棘状に分かれる。
・ 南アメリカやヨーロッパ。アフリカ、アジア(日本を含む)に移入分布する。日本全国の道端や畑地、空き地などに生育する。好窒素植物で湿った肥沃地を好むが、乾燥した場所でもよく生育する。