2021年07月16日
オオキンケイギク
オオキンケイギク(大金鶏菊)Coreopsis lanceolata L.
<肩書>
・ 外来生物法「特定外来生物」
・ 生態系被害防止外来種リスト「緊急対策外来種」
・ 「日本の侵略的外来種ワースト100」
キク科ハルシャギク属
(屋久島町宮之浦2015.5.)
夏になる頃、暑く感じる季節になる少し前から、道端に鮮やかで華やかな黄色のコスモスのような花を咲かせ、草むらで風に爽やかに揺れています。普段植物に興味がなくても、この時期だけ現れる黄色いコスモスのようなお花畑を見ると、気持ちよく感じる方がいるのではないでしょうか。
中には、種が流れて庭や畑に生えてきて毎年咲いたり、もしくは種を取ってきて庭に植えたりする方もいるのではないかと思います。
この花をきっかけに、日本にも、育ててはいけないヤバい植物があるという啓発になるでしょうか…。
先の「外来生物に対する対策」の記事でも取り上げましたが、改めて確認を。
日本には外来生物法という法律で取り扱いが規制されている「特定外来生物」があり、その違反の代償はなんと!個人で「懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金」、法人の場合最大「1億円の罰金」です。
たかが道端に勝手に生えている雑草ではないんです。それにしてもこの量刑は個人貯蓄においても、前科を負うということにおいても大きなリスクです。でもこれには北海道から沖縄まで日本全土の自然が担保になっています。大人として、一社会人として「そんなの知らなかった」という言い訳はしたくないですし、あまりしてほしくないです。
近年ではニュースやテレビ番組などでも頻繁に取り上げられていることなので、ぜひ機会があるごとに面倒くさがらず、知識として学んでほしいと思います。
特定外来生物は動物昆虫植物いろいろある上、それぞれ違った性質を持っていますが、多くは在来種を駆逐したり、辺りの景観を一変させてしまったり、国内の生態系に大きな影響を及ぼすようなものばかりです。その影響は日本だけならず世界でも問題になっているものばかりです。そのため日本以外でも多くの国で、栽培や運搬、販売、野外に放つこと等が禁止・規制されているものばかりです。
このオオキンケイギクもヤバい一味です。
世界では台湾、オーストラリア、ニュージーランド、サウジアラビア、南アメリカなどに移入分布しています。
日本には1880年代に観賞用に導入されました。繁殖力が強く、荒れ地など乾燥した環境でもよく育ち排ガスにも強いので、緑化にも使われました。海岸などでは砂をしっかり固定する働きをするので「砂防用植物」としても有能です。河川敷や道路端一面に黄色い美しい花で彩られるので、当初は非常に好まれました。
ところがその種子生産量は1平方メートル当たり約3000~5000粒。多年草なので刈り取りしたとしても毎年咲き、低木林や高木林などの自然度の高い環境にも侵入し定着します。河川植生の自然遷移の進行にもオオキンケイギクは侵入すると考えられています。
実際に報告されている影響事例・報告
●長野県の天竜奥三河国定公園にある天竜川では、1976年に初めてオオキンケイギクが確認され、2000年頃から急速に分布が拡大。お花畑を形成し、上流のほぼ全域でみられるようになりました。それに伴い、長野県固有のツツザキヤマジノギクやカワラニガナ、ツメレンゲカワラサイコなど河川敷特有の植物がみられなくなりました。更には絶滅の恐れがあるとされるタコノアシやミクリなど貴重な植物の衰退も懸念されています。
◾長野県南箕輪村の半自然草地の調査では、オオキンケイギクが優占する群落では一年生草本が少なくなっており、オオキンケイギクによる下層の光環境の悪化が考えられています。
◾岐阜県木曽川ではオオキンケイギクなどの外来植物を選択的に除去したところ、カワラヨモギ、カワラマツバ、カワラサイコ等の河原に固有の在来種が回復したことから、在来植物の衰退の主要な原因の一つは、外来植物の侵入であることが示されました。
日当たりがよく、人の手があまり入らず、敵が少ない河川敷を中心とした地域での拡大が全国的にみられるようです。夏頃に行われる雑草の刈り払いでも、花がきれいなので刈り残されることも多く、刈り払われても根が生き残ってよく発達するので、毎年同じところで群生して人の目を楽しませてくれます。
しかし河川は在来や特有の植物が生育していることが多いので、地域の自然を守るため各自治体が駆除事業を行っています。花期や駆除の適正な時期がわかっている種なので、大体全国一斉に、ほぼ同時期に撲滅キャンペーンが始まります。
現在市場でコレオプシスと呼ばれて販売されているいくつかの種がありますが、栽培が禁止される前は本種が一番ポピュラーで、ポット苗で園芸植物として流通していました。基本的には強健ですが、肥料過多や過湿に弱い面もあるようです。
園芸種として類似の植物があるので、気をつけなければいけませんが、ほとんどがわかりやすい特徴があるので見分けがつきやすいです。
●同属の「キンケイギク」は筒状花が紫褐色であることで区別できるので、花の中央部分が黄橙色でないものはオオキンケイギクでない可能性が高いです。また、キンケイギクは1年草です。
●キバナコスモスは葉の形が秋に咲くコスモスのような羽状深裂に似た形で、オオキンケイギクは細長いへら状(狭倒披針形)なので、区別できます。開花時期も違って、キバナコスモスは夏が終わってから咲きます。
名前は花の色から「金鶏(黄色の鳥)」に由来するといわれています。ちなみに、オオキンケイギクの花言葉は「いつも明るく」「きらびやか」。
基本種は全草ほぼ無毛のケナシオオキンケイギク(var.lanceolata)ですが、日本でまん延しているのは多毛のアラゲオオキンケイギク(var.villosa)だそうです。
まるで美しい悪女のような扱いのオオキンケイギクですが、一方では利用に向けた研究もされています。
岐阜大学工学部の纐纈守教授らが、オオキンケイギクには「強い抗がん作用のある物質」が含まれていることを突きとめました。オオキンケイギクの花弁の黄色い色素(フラボノイド)に着目し、鑑賞用菊・食用菊と比べ、希少なフラボノイドが大量に含まれていること、強い抗がん作用があることが確認されたのです。
→ オオキンケイギクの抗がん剤研究
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/35_2.html
他にも、オオキンケイギク群落を在来種であるチガヤを使って置き換える研究もあります。
→ チガヤ群落への遷移
https://www.especmic.co.jp/bestmann/doc/008_tenryugawa/tenryugawa.html
日本の、地域の自然を守るための外来種対策ですが、たまたま日本にやってきた未知の生物から新しい考えや技術が生まれる奇跡もあることを心に留めておきたいと思いました。
いいことも悪いことも多くを学んで、ここから始まる新しい時代を楽しみにしたいものです。
花の様子。八重であっても、小さくても、花弁が少し褐色気味でも、この花の中心の色は変わりません。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
私の観察記録では開花期は、屋久島では5月の大型連休のあたりのは咲き始めて、7月初旬頃まで。北海道札幌周辺では6月末頃から咲き始めて、8月半ばくらいまで花が確認できました。北と南、高地と低地では1~2か月程度のずれがあるようです。
出たての葉の様子。細くへら状です。見慣れればこの時点でもオオキンケイギクと判定できるぐらい、特徴的です。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
もう少し成長すると3~5小葉になります。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
つぼみ。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
つぼみの状態では、道端でもまったく目に留まりません。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
花が咲き始めるとすぐ目に留まります。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
多くが株立ちして、まとまって咲いています。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
花が終わったところ。毎日毎日どんどん咲いて枯れます。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
花が終わって2週~20日程度。種が熟すとこんな感じ。1株にたくさんの花をつけるので、種子生産量は計り知れません。
(屋久島町小瀬田2016.6.)
種の様子
<特徴>
・ 北アメリカ原産
・ 多年生草本
・ 花期は5~7月。
・ 花は直径5~7cmの頭状花(茎の先端に1つの花を付ける)で形はコスモスに似ている。コスモスは秋に咲くので、開花期は異なる。花(舌状花)の色は黄色橙色で花の中央部(管状花)も同じ色をしている。花びらの先端は腹側に4~5つのギザギザがある。中には花びらの付け根が赤茶色をしたものや八重咲になっている種類もあるが、基本的な舌状花や管状花の色、花びらの先のギザギザ、葉の形などの特徴は変わらない。総苞片は2列、外片は草質で8~10個が開出し内片は膜質。
・ 高さ30~70cm。株立ちする。
・ 葉は対生し、一部が互生する。長い柄があり、3~5小葉からなる。小葉は細長いへら状(狭倒披針形)で最大幅でも1㎝程度。葉の両面には荒い毛が生えており、鋸歯はない。根生葉は花時にも残る。
・ 果実は痩果。黒く扁平な楕円形で、周りに薄い半透明の翼がある。
・ 虫媒花。
・ ホソバオオキンケイギク、アラゲオオキンケイギクを区別する文献もある。
<肩書>
・ 外来生物法「特定外来生物」
・ 生態系被害防止外来種リスト「緊急対策外来種」
・ 「日本の侵略的外来種ワースト100」
キク科ハルシャギク属
(屋久島町宮之浦2015.5.)
夏になる頃、暑く感じる季節になる少し前から、道端に鮮やかで華やかな黄色のコスモスのような花を咲かせ、草むらで風に爽やかに揺れています。普段植物に興味がなくても、この時期だけ現れる黄色いコスモスのようなお花畑を見ると、気持ちよく感じる方がいるのではないでしょうか。
中には、種が流れて庭や畑に生えてきて毎年咲いたり、もしくは種を取ってきて庭に植えたりする方もいるのではないかと思います。
この花をきっかけに、日本にも、育ててはいけないヤバい植物があるという啓発になるでしょうか…。
先の「外来生物に対する対策」の記事でも取り上げましたが、改めて確認を。
日本には外来生物法という法律で取り扱いが規制されている「特定外来生物」があり、その違反の代償はなんと!個人で「懲役3年以下もしくは300万円以下の罰金」、法人の場合最大「1億円の罰金」です。
たかが道端に勝手に生えている雑草ではないんです。それにしてもこの量刑は個人貯蓄においても、前科を負うということにおいても大きなリスクです。でもこれには北海道から沖縄まで日本全土の自然が担保になっています。大人として、一社会人として「そんなの知らなかった」という言い訳はしたくないですし、あまりしてほしくないです。
近年ではニュースやテレビ番組などでも頻繁に取り上げられていることなので、ぜひ機会があるごとに面倒くさがらず、知識として学んでほしいと思います。
特定外来生物は動物昆虫植物いろいろある上、それぞれ違った性質を持っていますが、多くは在来種を駆逐したり、辺りの景観を一変させてしまったり、国内の生態系に大きな影響を及ぼすようなものばかりです。その影響は日本だけならず世界でも問題になっているものばかりです。そのため日本以外でも多くの国で、栽培や運搬、販売、野外に放つこと等が禁止・規制されているものばかりです。
このオオキンケイギクもヤバい一味です。
世界では台湾、オーストラリア、ニュージーランド、サウジアラビア、南アメリカなどに移入分布しています。
日本には1880年代に観賞用に導入されました。繁殖力が強く、荒れ地など乾燥した環境でもよく育ち排ガスにも強いので、緑化にも使われました。海岸などでは砂をしっかり固定する働きをするので「砂防用植物」としても有能です。河川敷や道路端一面に黄色い美しい花で彩られるので、当初は非常に好まれました。
ところがその種子生産量は1平方メートル当たり約3000~5000粒。多年草なので刈り取りしたとしても毎年咲き、低木林や高木林などの自然度の高い環境にも侵入し定着します。河川植生の自然遷移の進行にもオオキンケイギクは侵入すると考えられています。
実際に報告されている影響事例・報告
●長野県の天竜奥三河国定公園にある天竜川では、1976年に初めてオオキンケイギクが確認され、2000年頃から急速に分布が拡大。お花畑を形成し、上流のほぼ全域でみられるようになりました。それに伴い、長野県固有のツツザキヤマジノギクやカワラニガナ、ツメレンゲカワラサイコなど河川敷特有の植物がみられなくなりました。更には絶滅の恐れがあるとされるタコノアシやミクリなど貴重な植物の衰退も懸念されています。
◾長野県南箕輪村の半自然草地の調査では、オオキンケイギクが優占する群落では一年生草本が少なくなっており、オオキンケイギクによる下層の光環境の悪化が考えられています。
◾岐阜県木曽川ではオオキンケイギクなどの外来植物を選択的に除去したところ、カワラヨモギ、カワラマツバ、カワラサイコ等の河原に固有の在来種が回復したことから、在来植物の衰退の主要な原因の一つは、外来植物の侵入であることが示されました。
日当たりがよく、人の手があまり入らず、敵が少ない河川敷を中心とした地域での拡大が全国的にみられるようです。夏頃に行われる雑草の刈り払いでも、花がきれいなので刈り残されることも多く、刈り払われても根が生き残ってよく発達するので、毎年同じところで群生して人の目を楽しませてくれます。
しかし河川は在来や特有の植物が生育していることが多いので、地域の自然を守るため各自治体が駆除事業を行っています。花期や駆除の適正な時期がわかっている種なので、大体全国一斉に、ほぼ同時期に撲滅キャンペーンが始まります。
現在市場でコレオプシスと呼ばれて販売されているいくつかの種がありますが、栽培が禁止される前は本種が一番ポピュラーで、ポット苗で園芸植物として流通していました。基本的には強健ですが、肥料過多や過湿に弱い面もあるようです。
園芸種として類似の植物があるので、気をつけなければいけませんが、ほとんどがわかりやすい特徴があるので見分けがつきやすいです。
●同属の「キンケイギク」は筒状花が紫褐色であることで区別できるので、花の中央部分が黄橙色でないものはオオキンケイギクでない可能性が高いです。また、キンケイギクは1年草です。
●キバナコスモスは葉の形が秋に咲くコスモスのような羽状深裂に似た形で、オオキンケイギクは細長いへら状(狭倒披針形)なので、区別できます。開花時期も違って、キバナコスモスは夏が終わってから咲きます。
名前は花の色から「金鶏(黄色の鳥)」に由来するといわれています。ちなみに、オオキンケイギクの花言葉は「いつも明るく」「きらびやか」。
基本種は全草ほぼ無毛のケナシオオキンケイギク(var.lanceolata)ですが、日本でまん延しているのは多毛のアラゲオオキンケイギク(var.villosa)だそうです。
まるで美しい悪女のような扱いのオオキンケイギクですが、一方では利用に向けた研究もされています。
岐阜大学工学部の纐纈守教授らが、オオキンケイギクには「強い抗がん作用のある物質」が含まれていることを突きとめました。オオキンケイギクの花弁の黄色い色素(フラボノイド)に着目し、鑑賞用菊・食用菊と比べ、希少なフラボノイドが大量に含まれていること、強い抗がん作用があることが確認されたのです。
→ オオキンケイギクの抗がん剤研究
https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/35_2.html
他にも、オオキンケイギク群落を在来種であるチガヤを使って置き換える研究もあります。
→ チガヤ群落への遷移
https://www.especmic.co.jp/bestmann/doc/008_tenryugawa/tenryugawa.html
日本の、地域の自然を守るための外来種対策ですが、たまたま日本にやってきた未知の生物から新しい考えや技術が生まれる奇跡もあることを心に留めておきたいと思いました。
いいことも悪いことも多くを学んで、ここから始まる新しい時代を楽しみにしたいものです。
花の様子。八重であっても、小さくても、花弁が少し褐色気味でも、この花の中心の色は変わりません。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
私の観察記録では開花期は、屋久島では5月の大型連休のあたりのは咲き始めて、7月初旬頃まで。北海道札幌周辺では6月末頃から咲き始めて、8月半ばくらいまで花が確認できました。北と南、高地と低地では1~2か月程度のずれがあるようです。
出たての葉の様子。細くへら状です。見慣れればこの時点でもオオキンケイギクと判定できるぐらい、特徴的です。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
もう少し成長すると3~5小葉になります。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
つぼみ。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
つぼみの状態では、道端でもまったく目に留まりません。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
花が咲き始めるとすぐ目に留まります。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
多くが株立ちして、まとまって咲いています。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
花が終わったところ。毎日毎日どんどん咲いて枯れます。
(屋久島町小瀬田2016.5.)
花が終わって2週~20日程度。種が熟すとこんな感じ。1株にたくさんの花をつけるので、種子生産量は計り知れません。
(屋久島町小瀬田2016.6.)
種の様子
<特徴>
・ 北アメリカ原産
・ 多年生草本
・ 花期は5~7月。
・ 花は直径5~7cmの頭状花(茎の先端に1つの花を付ける)で形はコスモスに似ている。コスモスは秋に咲くので、開花期は異なる。花(舌状花)の色は黄色橙色で花の中央部(管状花)も同じ色をしている。花びらの先端は腹側に4~5つのギザギザがある。中には花びらの付け根が赤茶色をしたものや八重咲になっている種類もあるが、基本的な舌状花や管状花の色、花びらの先のギザギザ、葉の形などの特徴は変わらない。総苞片は2列、外片は草質で8~10個が開出し内片は膜質。
・ 高さ30~70cm。株立ちする。
・ 葉は対生し、一部が互生する。長い柄があり、3~5小葉からなる。小葉は細長いへら状(狭倒披針形)で最大幅でも1㎝程度。葉の両面には荒い毛が生えており、鋸歯はない。根生葉は花時にも残る。
・ 果実は痩果。黒く扁平な楕円形で、周りに薄い半透明の翼がある。
・ 虫媒花。
・ ホソバオオキンケイギク、アラゲオオキンケイギクを区別する文献もある。